五十嵐仁『戦後政治の実像』(小学館)

 

「平時の羽田孜、乱世の小沢一郎、大乱世の梶山静六」。これは自民党の金丸信元幹事長(故人)の人物評だったと著者はいう。「平時の羽田孜」はいまや政治的影響力を行使できず、「大乱世の梶山静六」はもはや鬼籍のひと。では「乱世」の小沢一郎・自由党党首は民主党との合流のなかで自民党政治の「壊体屋」(「解体」ではないことに注意)となりうるのか。本書の面白さをひとことでいえば、代表的な政治家たちの隠されていた履歴をたどることで、これからの政治動向が鮮明に「見えてくる」ことにある。

 タイトルが「戦後政治」となっていて「戦後政治史」となっていないことに注意したい。ここに記されたエピソード群は、ほとんどが当事者たちの貴重な証言のエッセンスであり、そこから導かれる分析は、「歴史」ではなく「現実」政治の行方だからである。たとえば小沢一郎氏。竹下政権成立前夜に騒ぎとなった皇民党による「誉め殺し」事件。その山場で小沢一郎氏はただ「うろうろ」するばかりであったという。その流れにある金丸氏への五億円献金問題の処理でも、小沢氏の判断ミスで金丸逮捕への道をつけることになった。一九九三年に成立した細川連立政権で、小沢氏が政権内に「二重権力」を作ったことも、当面する民主・自由両党「合併」の行方を予測させるところである。

 政治の世界はじつは面白く、かつ奇々怪々でもある。本書を読んであらためてそう思った。政治記者と政治家との癒着、女性スキャンダルの背景などなど、いまも進行中の「舞台裏」政治が「表舞台」に反映される描写は圧巻だ。

 著者が丁寧に紹介してくれる戦後政治にまつわるエピソードと分析を読んだうえで、政治のありように判断を下し、これからを「読む」ことは、できの悪いミステリーなどよりもずっと刺激的だ。そう、本書は夏休みの読書としてお薦めというだけではなく、政治理解の基礎知識として「一家に一冊」の保存版なのだ。ホームページではじまっている「続編」を期待するとともに、野党編もぜひまとめてもらいたい。

(『週刊ポスト』2003年8月15日号)

All copyright 2000-2003 Yoshifu Arita. All Rights Reserved. E-mail: arita@gol.com