山菜の旅

 テレビ番組を見ていて「へーっ」と思ったことがある。「見ていて」というよりも出演している「ザ・ワイド」のスタジオで放送されていたVTRを見ながら感心したのだった。何に驚いたかといえば、気の利いた飲み屋で、刺し身や小料理などの横に付いてくる葉っぱである。春でいえば青いカエデの葉だ。山あいで採れるそのときどきの葉っぱを東京の築地市場に出荷することで、「村おこし」になっているという特集だった。自然もふくめてすべてが商品になる時代だといってしまえば身もふたもない。都会の小さな酒場。皿に盛られた料理に添えられて意外な季節の風物があれば、それはうれしいもの。小さな自然にさえ感動するような人工的生活が当り前になってしまった反動でもあるだろう。

 居酒屋の料理にも季節感がある。冷凍商品を基本とするチェーン店で出される旬の山菜類は、口に入れてすぐにそれとわかる。水々しいしなやかさが失せているからだ。店の佇まいがどれほど現代風に建てられていようとも、職人精神が息づいているかどうか。池波正太郎さんや小津安二郎さんたちが教えてくれるように、名店とは単に歴史があるかどうかではなく、小さなことにも手間ひまかける熱意があるかどうかなのである。

 東京・神保町に「家康」という焼鳥屋がある。この店では山形で採れる山菜が短い期間だけ供される。ふきのとう、ゼンマイ、ワラビなどなど。昔は野菜と山菜の区別などなく、食糧として口にしていたという。ところが室町時代に野菜が本格的に栽培されることに伴って、山菜とは別に食べるようになった歴史がある。しかし、東北地方では、いまでも春先には山菜を野菜として扱っているのだそうだ。「家康」店主の知人が、自ら山に入って採ってくる山菜が送られてきて店に出される。一年に一度の季節限定の楽しみでもある。都会のビルのはざまで醤油を注して口にする山菜もいいが、たまには山菜料理東北の旅に出かけるのもまた粋である。山菜のほろ苦さを舌先に感じたとき、そんな夢がこころのなかに広がっていった。

(「読売新聞」二〇〇〇年五月)

All copyright 2000-2005 Yoshifu Arita. All Rights Reserved. E-mail: arita@gol.com